ミュージックバー 山渡は、繁華街・池袋の大きな通りに面しながら、
地下に降りた途端、外の喧騒がすっと遠のく静かな大人の隠れ家です。
小さな看板の下、アナログレコードを真空管アンプで、
ゆったりと味わっていただく音楽バーとして営業しています。
今回は、ジャズと付き合って四十年になるマスターが、
「これからジャズを聴いてみたい」と思った人のために、
肩肘張らずに楽しめて、なおかつ奥行きのある
モダン・ジャズの名盤を十枚選びました。
① Miles Davis『Walkin’』(1954)
ハード・バップ誕生期の空気を封じ込めた一枚。
クール派の印象が強かったマイルスが、ここでは土の匂いがするブルースを真正面から吹いている。
語りすぎず、余白を残すフレーズが魅力で、ジャズの「間」の気持ちよさを自然に教えてくれる。
初めてでも構えず聴ける、大人の導入編。
② Sonny Rollins『Saxophone Colossus』(1956)
サックス一本で世界を切り開く、その豪胆さに驚かされる名盤。
「St. Thomas」の陽気なリズム、「Moritat」の知的な構築力。
即興なのに物語がある。考えすぎず、でも浅くない。
ジャズは自由でいいのだと、ロリンズが背中で教えてくれる。
③ John Coltrane『Blue Train』(1957)
コルトレーンが己の道を定めた、決定的な一枚。
分厚いアンサンブルの中で、サックスは迷いなく前へ進む。
情熱的だが独りよがりではない。その誠実さが音に滲む。
ハード・バップの文脈を理解する入口として、これ以上ふさわしい作品は少ない。
④ Art Blakey & The Jazz Messengers『Moanin’』(1958)
イントロ一発で心をつかむ名盤。
ゴスペル由来のフレーズと熱量の高いリズムが、ジャズの楽しさを真正面から伝える。
若手育成バンドとしても名高いメッセンジャーズの勢いがそのまま音になっている。
難しさより先に、身体が反応する一枚。
⑤ Cannonball Adderley『Somethin’ Else』(1958)
名義はキャノンボールだが、マイルスの存在感が静かに支配する名盤。
特に「Autumn Leaves」の抑制された美しさは、聴くたびに表情が変わる。
派手ではないが、長く寄り添える音。
モダン・ジャズの洗練とは何かを、さりげなく教えてくれる。
⑥ Miles Davis『Kind of Blue』(1959)
モード・ジャズという新しい考え方を、誰にでも開いた歴史的作品。
コードに縛られすぎない自由さが、聴き手の想像力も解放する。
集中しても、流しても成立する不思議な懐の深さ。
ジャズ入門としても、最終到達点としても語られる理由がある。
⑦ Dave Brubeck Quartet『Time Out』(1959)
変拍子という実験的要素を、ここまでポップに仕上げた稀有な一枚。
「Take Five」は入口として完璧で、知的なのに難しくない。
西海岸らしい爽やかさと構築美が共存し、ジャズは堅苦しくないと教えてくれる。
肩の力を抜いて聴ける良盤。
⑧ John Coltrane『Giant Steps』(1960)
音楽的には難解とされるが、実はとても正直な作品。
超高速で移ろうコード進行に、全力で立ち向かうコルトレーンの姿がそのまま音になっている。
理解より体感が先に来るタイプの名盤。
ジャズの探究心に触れたい人に勧めたい。
⑨ Bill Evans Trio『Waltz for Debby』(1962)
ピアノ・トリオの理想形とも言われる名盤。
繊細で、少し壊れやすい感情が、そのまま音楽になっている。
ベースとドラムが語り合うように寄り添い、音数は少ないのに心に残る。
静かなジャズの入口として、これほど優しい作品はない。
⑩ Herbie Hancock『Maiden Voyage』(1965)
海をテーマにしたコンセプト・アルバム。
若きハンコックの知性と詩情が、美しい余白となって広がる。
複雑な和声を使いながら、音は驚くほど分かりやすい。
モダン・ジャズが未来へ進んでいく、その瞬間を穏やかに記録した一枚。


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